FacebookやInstagramに掲載された詐欺広告について、運営会社は「広告を出した第三者の責任」と言い切れるのでしょうか。
ドイツのフランクフルト地方裁判所は2026年9月16日、第三者が出した偽広告について、Metaにも責任があるとの判決を出しました。
広告を作ったのが第三者であっても、表示する相手や順番をアルゴリズムで決めている以上、単なる「場所の提供者」とは言い切れないと判断した点が重要です。
この判決により、SNSが負う責任の範囲は広がる可能性があります。ただし、判決はまだ確定していません。Metaは判断に反対し、今後の対応を検討するとしています。
ドイツ裁判所がMetaに詐欺広告の責任を認める
フランクフルト地方裁判所は、偽広告の掲載停止に加え、損害賠償や広告収入などの情報開示もMetaに命じました。
訴えを起こしたのは、ドイツの金融情報サービス「Finanzfluss」と、共同創業者のThomas Kehl氏です。
第三者はFinanzflussのブランドやKehl氏の写真を無断で使用し、金融商品を勧めているように見せかけた広告をFacebookやInstagramへ掲載していました。
広告のリンクを開くと、WhatsAppのグループなどへ誘導され、そこで投資話を持ちかけられる仕組みでした。実際に被害を訴えた利用者もいたとされています。
裁判所は、企業の人格権と、Kehl氏の肖像や人格に関する権利が侵害されたと判断しました。同じ内容や類似した偽広告についても、Metaの責任を認めています。
最大のポイントは「アルゴリズムが広告を選んでいる」こと
今回の判決で最も注目すべきなのは、Metaが広告を単純に保存しているだけではないと、裁判所が判断したことです。
EUのDigital Services Act(DSA)には、ネットサービス事業者を一定の範囲で守る「免責」の仕組みがあります。
第三者が違法な内容を投稿しても、運営会社がその事実を知らなかった場合などは、原則として責任を負いません。違法性を知った後、速やかに削除した場合も保護されます。
しかし、今回の裁判所はMetaを単なる保存場所とは見なしませんでした。
FacebookやInstagramの広告では、自動オークションなどが使われています。どの広告を誰に、いつ、どの順位で表示するかは、システム側が決めます。
裁判所は、この仕組みを「コンテンツへのコントロール」と判断しました。広告主が投稿したものを、そのまま時系列で並べているわけではないためです。
EU司法裁判所の2026年6月判決が土台になった
今回の判断を理解するうえで重要なのが、2026年6月16日にEU司法裁判所が出した「WebGroup and Coyote」判決です。
EU司法裁判所は、サービス運営者がアルゴリズムを使い、表示条件や優先順位を決める場合について判断を示しました。
運営者が自らの利益のために、誰に何をどの順番で表示するかを決めている場合、コンテンツを「コントロール」している可能性があるとしたのです。
フランクフルト地方裁判所は、この考え方をMetaの広告システムに当てはめました。
従来の「通報されたら削除する」という考え方とは、ここが大きく異なります。
「誰が広告を作ったか」に加え、「誰が広告の拡散方法を決めているか」も、責任を判断する材料になったのです。
独自計算:Finanzflussは1日平均8件以上を通報していた
裁判資料に記載された数字を計算すると、被害企業が手作業で対処するには、かなり大きな負担だったことが分かります。
Finanzfluss側は2024年7月29日から8月28日までに、約256件の違反をMetaへ報告していました。31日間で割ると、1日平均約8.3件です。
しかも裁判資料によると、監視と通報のために、原告側の従業員1人がフルタイムで対応していました。
それでも、削除までに長い時間がかかるケースがありました。裁判所の発表では、最長で62日かかったとされています。
別の偽広告が、2025年6月3日から15日までに5,000人以上へ表示されたことも、裁判資料に記録されています。
13日間として単純計算すると、1日平均で385人以上です。
つまり「見つけてから消せばよい」という対応では、削除を待つ間にも数千人へ偽広告が届く可能性があります。
事後の削除に加え、事前検知が重要になるのはこのためです。
Metaだけの問題なのか Google・TikTokとも比較
詐欺広告はMetaに限った問題ではありません。ただし、通報後の対応にはプラットフォームごとの差が出ています。
欧州消費者機構BEUCなどは2025年12月から2026年3月にかけて、Meta、TikTok、Googleに掲載された合計893件の疑わしい広告を調査しました。
| サービス | 通報した広告 | 削除 | 削除率 |
|---|---|---|---|
| Meta | 503件 | 146件 | 約29% |
| TikTok | 360件 | 79件 | 約22% |
| 30件 | 約18件 | 60% |
BEUCの調査では、Metaは503件中146件を削除しました。一方で、216件は通報が認められず、90件は対応されなかったとしています。
Googleの削除率は60%と高く見えますが、調査対象は30件だけです。この数字だけで、各社の詐欺対策全体を評価することはできません。
また、これは利用者が通報した広告への対応率です。各社が自動検知によって削除した広告は含まれていない点にも注意が必要です。
Metaは「2025年に1億5,900万件以上を削除」と反論
Metaは、詐欺広告を放置しているとの見方に反論するデータも示しています。
同社によると、2025年には世界で1億5,900万件以上の詐欺広告を削除しました。そのうち92%は、利用者から報告される前に発見したとしています。
単純計算では、約1億4,600万件を事前に処理したことになります。
一方、残る約8%は約1,270万件に相当します。概算ではありますが、自動検知だけですべてを防ぐ難しさも浮かび上がります。
同社は、広告主の本人確認も拡大しています。2026年末までに、認証済み広告主からの広告収入を全体の90%まで高める計画です。
Metaは今回の判決について、詐欺師は常に新しい手口を使っていると説明しています。そのうえで、AIや顔認識、広告主認証などへの投資を続ける方針です。
過去にもMetaは「似た偽広告まで消す」よう求められていた
今回の判決は突然出てきたものではありません。ドイツでは、プラットフォーム側の責任を広げる判断が積み重なっています。
2025年3月には、医師でテレビ司会者のEckart von Hirschhausen氏を使ったDeepfake広告を巡る裁判がありました。
フランクフルト高等地方裁判所は、違法な投稿について具体的な通知を受けた後は、ほぼ同じ偽コンテンツも探して削除する必要があると判断しました。
画像のサイズや色、字幕などを少し変えただけなら、被害者が毎回一から通報する必要はないという考え方です。
2025年の判断が「通報後、類似コンテンツまで対応する責任」を認めたものだとすれば、今回の判決はさらに一歩踏み込んでいます。
広告配信そのものをアルゴリズムで制御する事業者を、そもそも中立的な保管者と見なせるのかという問題に踏み込んだからです。
ただし「SNSの免責がなくなった」と考えるのは早い
今回の判決が出たからといって、FacebookやInstagramが第三者の投稿すべてに責任を負うようになったわけではありません。
まず、今回はフランクフルト地方裁判所による一審判決です。2026年9月18日時点では確定しておらず、上級裁判所で争われる可能性があります。
また、DSA第8条は、プラットフォームにすべての投稿を常時監視する一般的な義務を課すことを禁じています。
今回問題になったのは、特定の人物やブランドを悪用した偽広告です。Meta自身がアルゴリズムで広告の表示を制御していた点も重視されました。
したがって、「違法投稿が1件出たらSNS運営会社が自動的に賠償する」という判決ではありません。
詐欺でお金を失った利用者全員への賠償を認めた判決でもありません。今回認められた損害賠償は、訴訟を起こしたFinanzfluss側の権利侵害に関するものです。
独自分析:普通の投稿より「有料広告」の責任が重くなる可能性
今回の判決から特に注目したいのは、通常のSNS投稿より「有料広告」のほうが、プラットフォームの責任を問われやすくなる可能性です。
通常の投稿なら、利用者が自分で内容を作り、SNSは保存場所を提供しているという説明が成り立ちやすくなります。
しかし、広告は事情が異なります。
プラットフォームは広告費を受け取ります。そのうえで、広告オークションや利用者データなどを使い、誰に広告を見せるかを最適化しています。
広告には「第三者が作ったコンテンツ」であると同時に、「プラットフォームが有料で届けているコンテンツ」という性格があります。
今回の判決が上級審でも維持されれば、「広告内容を作ったのは広告主なので、プラットフォームには関係がない」という説明は通りにくくなる可能性があります。
今後の争点は「誰が投稿したか」から、「誰が拡散を制御し、誰がそこから収益を得たか」へ移っていく可能性があります。
詐欺広告から得た「広告収入」の開示も重要
今回の判決では、削除義務に加え、Metaが偽広告から得た収入の開示を命じた点にも注目できます。
裁判所は、対象となる偽コンテンツのURLや閲覧数、それによって得た収入などの情報を開示するよう命じました。
これまで詐欺広告では、被害額が分かっても、プラットフォーム側がいくら稼いだのかを外部から確認するのは困難でした。
収益まで開示されれば、詐欺広告を早く止めるために必要な費用と、広告を掲載して得た収益との関係も検証しやすくなります。
広告プラットフォームの経済的な仕組みを調べるうえでは、削除件数だけを見るより重要なデータとなります。
日本の利用者にも無関係ではない
ドイツの一審判決であり、日本へ直接適用されるわけではありません。しかし、詐欺広告そのものは日本でも大きな問題です。
Metaによると、日本では2025年だけで、詐欺や不正行為に関するポリシーに違反した広告を100万件以上削除しました。その92%以上は、利用者から報告される前に対処したとしています。
今後、欧州で広告主の確認や事前検知が強化されれば、その技術が日本を含む他の地域へ広がる可能性もあります。
利用者側も、有名人の写真やニュース番組風の動画が使われているという理由だけで、広告を信用しないことが大切です。
特に「広告→外部サイト→LINEやWhatsAppなどの閉じたグループ→投資」という流れには注意が必要です。
まとめ 「場所を貸しただけ」が通用しにくくなる可能性
今回のドイツ判決が示した最大の変化は、SNSがコンテンツを「置く場所」なのか、それとも「届ける主体」なのかを問い直したことです。
アルゴリズムが表示相手や順位を決め、プラットフォームが広告収入を得ています。その場合まで、第三者のコンテンツとして広く免責されるのかが問われています。
ただし、判決はまだ確定していません。DSAにも、一般的な監視義務を課すことを禁止する規定があります。
したがって、SNSの免責制度そのものがなくなったと見るのは早すぎます。
それでも、2026年6月のEU司法裁判所判決と今回のドイツ判決を合わせると、重要な方向性が見えてきます。
「アルゴリズムで拡散を制御するなら、その結果についても一定の責任を負う」という考え方が、欧州のプラットフォーム規制で現実の判例になり始めています。
主な参考資料
フランクフルト地方裁判所「Fake-Werbung」2026年9月17日:判決に関する公式発表
EU司法裁判所「WebGroup Czech Republic and Coyote System」2026年6月16日:EU司法裁判所の公式発表
EU Digital Services Act:EUR-LexのDSA原文
フランクフルト高等地方裁判所「Hirschhausen Deepfake事件」:裁判所の公式発表
Meta「2026年の詐欺対策」:Meta公式発表
BEUC「Sponsored by Scammers」:欧州3プラットフォームの調査結果



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