AIサーバーの次の不足は光通信チップ?GlobalFoundriesとMarvellが増産

AIサーバーの供給を左右する部品は、GPUやHBMだけではなくなってきました。次に注目されているのが、GPU同士を高速でつなぐ光通信部品です。

半導体受託製造大手のGlobalFoundriesとMarvellは2026年9月17日、光通信向け半導体の生産能力を増やすと発表しました。米バーモント州バーリントンの工場で、SiGe(シリコンゲルマニウム)技術の生産能力を拡大します。

光通信部品は、すでにAIデータセンターの制約になり始めています。ただし、「光通信チップ全体が一斉に不足する」と考えるのは正確ではありません。

不足しやすいのは、レーザー、SiGe製品、光学部品、基板などです。どれか一つを増産しても、別の部品が次のボトルネックになる可能性があります。

GlobalFoundriesとMarvellは何を発表したのか

両社は複数年契約を拡大し、GlobalFoundriesのSiGe技術を使った半導体の生産能力を増やします。

対象は、差し込み式の光トランシーバー、NPO、CPOです。NPOは、光部品を演算チップの近くに配置する方式です。CPOでは、光部品とスイッチを同じパッケージ内にまとめます。

発表項目確認できた内容
契約期間複数年
増産する技術高性能SiGe技術
生産拠点米バーモント州バーリントン
主な用途光トランシーバー、NPO、CPO
現在の対応速度1レーン当たり200Gbps
増産率・投資額公表されていない
量産開始時期公表されていない

両社は10年以上にわたり、光ネットワーク分野で協力してきました。今回の契約は新工場を建設するものではなく、既存の生産体制を土台に能力を追加するものです。

発表後の米国市場では、GlobalFoundries株が約4%、Marvell株が6.3%上昇しました。ただし、株価の反応だけで今後の供給量や収益を判断することはできません。

SiGeは「光を出すチップ」そのものではない

今回増産するSiGe製品は、光モジュールを構成する部品の一つです。レーザーや光ファイバーまで、すべてGlobalFoundriesが増産するわけではありません。

SiGeは、シリコンにゲルマニウムを組み合わせた半導体技術です。高速な信号を扱いやすく、消費電力や信号品質の面でも利点があります。

光トランシーバーは、一種類のチップだけでは動きません。電気信号を光に変え、受け取った光を電気信号へ戻すために、複数の部品を組み合わせています。

部品主な役割代表的な材料・技術
DSP信号の補正や符号化を行う先端CMOS
ドライバー光変調器を動かす信号を増幅するSiGeなど
TIA受信した微弱な電気信号を増幅するSiGeなど
光変調器・受光素子電気と光を相互に変換するシリコンフォトニクスなど
レーザー通信に使う光を作るInPなど
基板・実装各部品を接続して放熱するPCB、先端パッケージ

MarvellはDSPに加え、リニアドライバーやTIAも扱っています。ただし今回の発表では、どの製品をどれだけ増産するのかは明らかにされていません。

なぜAIサーバーで光通信の需要が増えるのか

AIデータセンターでは、一台のGPUを高速化するだけでなく、多数のGPUへ遅れなくデータを届ける能力が求められています。

大規模なAIシステムでは、数千から数万基の演算装置を一つのシステムとして動かします。通信が遅ければ、GPUは計算をせずにデータが届くのを待つことになります。

短い距離では、安くて信頼性の高い銅配線が有利です。ところが、距離や通信速度が上がるほど信号損失と消費電力が増えます。そのため、ラック間やデータセンター間では光通信が欠かせません。

200Gbps/レーンで何が変わるのか

200Gbpsの信号を8レーン束ねると、1.6Tbpsになります。理論上は毎秒200GBを送れる速さです。

単純計算では、1TBのデータを約5秒で転送できます。実際には通信方式の処理や混雑があるため、この速度をそのまま利用できるわけではありません。

レーン速度レーン数合計速度理論上のバイト換算
100Gbps8800Gbps毎秒100GB
200Gbps4800Gbps毎秒100GB
200Gbps81.6Tbps毎秒200GB

同じ800Gbpsなら、100Gbps品では8レーン必要ですが、200Gbps品なら4レーンで済みます。部品点数を減らせる可能性がある一方、高速になるほど信号処理や放熱は難しくなります。

光トランシーバー市場は1年で57.6%拡大する見通し

TrendForceは、AI向け光トランシーバー市場が2025年の165億ドルから、2026年には260億ドルへ拡大すると予測しています。

増加額は95億ドルです。伸び率は57.6%で、市場規模は1年で約1.58倍になる計算です。

項目2025年2026年予測変化
AI向け光トランシーバー市場165億ドル260億ドル95億ドル増
指数(2025年=100)100157.657.6%増

Marvellの業績からも、同じ傾向がうかがえます。2026年8月1日までの四半期では、データセンター部門の売上高が21億7,150万ドルでした。

前年同期の14億9,050万ドルから、6億8,100万ドル増えています。伸び率は約45.7%で、データセンター部門は全売上高の79%を占めました。

光通信部品の不足は、すでに一部で始まっている

今回の増産は、将来に備えるためだけのものではありません。レーザー、InPウエハー、光トランシーバー用基板では、すでに供給制約が報告されています。

基板の納期は約6週間から6カ月へ

Broadcomは2026年3月、レーザーに供給制約があると説明しました。光トランシーバー用PCBの納期も、約6週間から6カ月へ延びたとしています。

1カ月を4.35週として計算すると、6カ月は約26.1週です。納期は約4.35倍に延びたことになります。

InPウエハーは250%値上がり

高速レーザーなどに使われるInP(リン化インジウム)も不足しています。中国の輸出管理によって供給が遅れ、6インチウエハーの平均価格は5,000ドルへ上昇しました。

Reutersによると、規制導入後の上昇率は250%です。主要2社が世界生産の約80%を占めているため、供給先を短期間で切り替えるのは簡単ではありません。

同じ報道では、Lumentumは生産量を4倍にしても2028年まで売り切れとされています。新工場が稼働するまでには、通常2~3年かかるとの見方もあります。

今回の増産で本当に不足は解消するのか

SiGeの供給は増えますが、光モジュール全体の不足まで解消するとは限りません。ボトルネックがレーザーや実装工程へ移る可能性があります。

光モジュールは、必要な部品が一つでも欠ければ完成しません。SiGe製品を増やしても、レーザーや基板、光学調整の能力が不足していれば、出荷量は増やせません。

GlobalFoundriesには、10年以上にわたりSiGeを製造してきた実績があります。新しい工程をゼロから立ち上げる場合と比べれば、増産時の不確実性は小さいと考えられます。

ただし、両社は増産率、ウエハー投入量、投資額を公表していません。現時点の情報だけでは、「大幅増産」や「不足解消」とまでは断定できません。

BroadcomやNVIDIAとの競争はどうなるのか

競争では、通信速度に加えて、消費電力、歩留まり、信頼性、量産能力まで問われます。

企業・陣営主な強み注目点
Marvell+GlobalFoundriesDSP、TIA、ドライバー、SiGe製造200Gbps/レーンと米国内の増産
Broadcomスイッチ、DSP、CPOを幅広く展開400Gbps/レーン技術も発表
NVIDIAGPUからネットワークまで一体設計光技術をスイッチへ統合
Credo低消費電力接続、DSP、光IC銅と光を使い分ける製品群
Coherent・Lumentum・AOIレーザー、光部品、完成モジュールInP供給と増産速度が課題

Broadcomは2026年3月、400Gbps/レーンの光DSPと関連部品を公開しました。Marvellの現行SiGeロードマップで示されている200Gbps/レーンを上回る数字です。

とはいえ、レーン速度だけで優劣は決まりません。量産時期、対応距離、消費電力、価格などが異なるためです。

NVIDIAはCPOを採用したネットワークスイッチで、従来世代より3.5倍の電力効率をうたっています。その一方で、GPU間の接続では銅の方が信頼性に優れるとして、光への全面移行を見送ってきました。

過去のAI部品不足と違う点

AIインフラの供給問題は、一つの部品を増産すれば終わるものではなく、制約となる工程が次々に移ってきました。

2023年以降は、GPU本体に加えて、HBMやCoWoS先端パッケージが供給を制限しました。その後は、変圧器、発電設備、冷却装置、電力網も課題になっています。

光通信が過去の不足と違うのは、関係する部品の種類が多い点です。先端CMOS、SiGe、シリコンフォトニクス、InP、基板、光学調整を、それぞれ別の企業が担っています。

そのため、GPUの出荷数だけを見ても、AIシステム全体の完成台数は判断できません。ネットワーク部品の納期まで確認する必要があります。

「次の不足は光通信チップ」と断定できない理由

不足の兆候は強まっていますが、光通信がAIサーバー最大の制約になると決まったわけではありません。

第一に、電力の確保は今も大きな課題です。大規模施設では1GWを超える電力を使う例があり、電力網や発電設備の整備にも時間がかかります。

第二に、近距離では今後も銅配線が使われます。銅は安く、消費電力を抑えやすいうえ、信頼性も高いためです。すべての接続が光に置き換わるわけではありません。

第三に、現在の需要予測が強すぎる可能性もあります。AI投資が減速すれば、長期契約で確保した設備が余り、供給不足から在庫過剰へ転じることもあります。

今回の発表から需要の強さは読み取れますが、実際にどの程度不足しているのかまでは分かりません。増産量が公表されていない点には注意が必要です。

独自分析:不足するのは「光通信チップ」ではなく特定工程

今後起きやすいのは、光通信市場全体の一律な不足ではなく、世代や部品によって不足状況が異なる「まだら模様の不足」です。

たとえば400Gなど旧世代の在庫があっても、800Gや1.6Tに必要な200Gbps対応部品が足りないことがあります。市場全体の在庫統計だけを見ていると、実際の供給状況を見誤る可能性があります。

今回の契約には、もう一つ注目したい点があります。SiGe製造を米国内で増やすことで、Marvellはアジアに集中している供給網の一部を分散できます。

ただし、InPやレーザーまで米国内で完結するわけではありません。SiGeの供給が増えれば、相対的にInPや光学組み立ての不足が目立つ可能性もあります。

今回の増産はボトルネックを完全になくすというより、次に不足する工程を明確にする動きとも考えられます。

利用者や企業にはどんな影響があるのか

一般向けPCの価格にすぐ影響する可能性は低いものの、AIクラウドの導入時期や利用料金には間接的な影響が出る可能性があります。

光部品が不足すると、GPUを用意できてもクラスターを完成させられません。クラウド事業者は設備の稼働開始を遅らせるか、高価な代替品を使う必要があります。

企業がAI基盤を導入する場合は、GPUの納期だけを確認するのでは不十分です。800Gスイッチ、光トランシーバー、ケーブルの納期も確認しておく必要があります。

投資家も、「フォトニクス関連」という分類だけでは判断できません。DSP、レーザー、SiGe、基板のどこを担っているのか、さらに増産余地があるのかを見る必要があります。

今後確認したい5つの数字

不足が本当に深刻になるかどうかは、発表内容だけでなく、出荷量、納期、価格、歩留まりを見ることで判断しやすくなります。

  1. GlobalFoundriesが追加するSiGe生産能力
  2. 800G・1.6T光トランシーバーの出荷数量
  3. レーザーとInPウエハーの価格・納期
  4. 光トランシーバー用PCBの納期
  5. NPO・CPOの量産歩留まりと故障率

今回の発表で具体的な数字が示されたのは、200Gbps/レーンという技術性能です。今後、増産量や出荷時期が公表されれば、供給不足をどこまで緩和できるのか判断しやすくなります。

まとめ

GlobalFoundriesとMarvellの増産からは、AIの競争軸が「GPUを確保する段階」から「GPUを効率よくつなぐ段階」へ移りつつあることが分かります。

AI向け光トランシーバー市場は、2026年に57.6%成長する見通しです。基板の納期長期化やInPの値上がりも起きており、供給制約はすでに現実の問題になっています。

ただし、SiGeの増産だけで光通信部品の不足が解消するわけではありません。レーザー、基板、実装、電力など、複数の制約を合わせて見る必要があります。

主な参考資料

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