金属でプラズマを圧縮し1200万℃超——General Fusionの核融合実験は何を達成した?

カナダのGeneral Fusionは2026年10月8日、核融合実証機「LM26」で電子温度が1200万℃を超えたと発表しました。金属の壁を内側に押し込み、プラズマを圧縮して加熱した成果です。英国原子力公社(UKAEA)も計測に参加しました。[1]

今回達成したのは、金属でゆっくり圧縮することによる電子の加熱です。発電に成功したわけでも、装置全体で使ったエネルギーを上回る出力を実証したわけでもありません。それでも、発電所への応用を目指す方式で、重要な温度目標を超えたことには意味があります。

開発はどこまで進み、何が課題として残っているのでしょうか。公式発表と公開論文をもとに、過去の結果や別の方式と比較します。温度の上昇率、圧縮に必要な電力、繰り返し運転の回数についても、独自に計算しました。

何を達成した?「電子温度1 keV超」を複数の方法で確認

LM26は「Lawson Machine 26」の略称です。今回の発表では、レーザーを使った計測で約1.1 keVを確認しました。同社の温度表記では、約1260万℃に相当します。keVは粒子のエネルギーを表す単位で、核融合研究では温度を表す際にも使います。[2]

プラズマは、原子から電子が離れた状態の物質です。その中では、電子と、原子核を含む「イオン」が動いています。電子とイオンの温度は、必ずしも同じではありません。

見出しの「1200万℃超」は、燃料全体の温度ではなく、電子温度を指します。核融合反応を起こすのは原子核なので、燃料イオンの加熱についても別に確認する必要があります。

調べた対象公開論文の値計測・推定の方法
電子1.090±0.040 keVレーザー光のトムソン散乱
電子1.180±0.065 keV軟X線の信号を使うAXUV診断
重水素イオン0.459±0.033 keV中性子の生成量と密度分布から推定

数値は、圧縮実験「LMC-12」を扱った2本の公開論文から抜き出しました。原文のeVを1000で割り、単位をkeVに統一しています。観測した時刻や領域が異なるため、この表だけでは電子とイオンの温度比を求められません。[3][4]

金属で押し縮める仕組み——実験では固体リチウムを使用

同社の方式は「磁化標的核融合(MTF)」と呼ばれます。磁場で保ったプラズマを周囲から押し縮め、加熱する方式です。自転車の空気入れを急に押すと内部の空気が熱くなる現象を思い浮かべると、圧縮と加熱の関係をつかみやすくなります。

LM26では、初期直径1.76mの固体リチウム製の壁を使います。この壁は「ライナー」と呼ばれ、外側のコイルが作る磁場によって内側へ押し込まれます。今回の実験装置は、固体金属を電磁力で圧縮する仕組みです。液体金属を使う将来の発電所とは区別する必要があります。[5]

加熱・圧縮の主な手段として、超電導磁石や高出力レーザーに頼らない設計です。ただし、磁場そのものは使います。温度の計測にはレーザーも使うため、「磁石もレーザーも使わない装置」と説明すると不正確です。[1]

「世界初」の範囲は?最高温度の記録ではない

General FusionとUKAEAが世界初としているのは、低速の圧縮で電子温度1 keVに達した点です。ほかの圧縮方式には、マイクロ秒やナノ秒で燃料を押し縮めるものがあります。同社の方式では、圧縮をミリ秒単位で進めます。[1]

「世界初」は、方式と圧縮速度を限定した表現です。核融合研究で初めて1200万℃に達した、という意味ではありません。UKAEAは、1969年にもロシアの研究者と協力し、1000万℃を超える温度をレーザー計測で確認したと説明しています。[1]

今回の成果を評価するうえでは、温度の順位よりも、金属で圧縮する方式の検証が進んだことに注目したいところです。発電所への採用を目指す仕組みに近い条件で、プラズマを保ちながら加熱できました。

独自計算:前回より約51%高温、次の目標は約9.2倍

General Fusionは2026年6月22日、LM26で電子温度0.72±0.08 keVを報告していました。今回のトムソン散乱による計測値1.090 keVと、それぞれの公表値の中心値を比べると、約1.51倍になります。[6][3]

計算式は「(1.090÷0.72−1)×100=約51.4%」です。ただし、実験条件や計測条件をそろえた比較ではありません。発電効率や核融合出力が51%上がったという意味でもありません。

同社が次に掲げる温度目標は10 keVです。今回の1.090 keVを基準にすると、「10÷1.090=約9.17倍」になります。[7]

最初の温度目標は超えましたが、次の10 keVに達するには、温度を今回の約9.2倍に高める必要があります。ただし、この比率から「発電の実現まで約11%進んだ」と判断することはできません。温度、密度、熱を保つ時間、装置の耐久性は、それぞれ改善する必要があるからです。

高い山に登るときも、標高が10分の1に達したからといって、必要な労力や時間の10分の1を費やしたとは限りません。核融合の開発でも、目標温度に対する割合と、実現までの進み具合は別です。

なぜ低速が有利なのか——「電力」と「エネルギー」を分けて計算

General Fusionは、低速圧縮なら必要な電力を抑え、装置を簡素にすることで費用を下げられると説明しています。これは同社が掲げる設計上の利点です。今回の結果だけで、発電コストの低さまで確かめられたわけではありません。[8]

仮の数字を使って、この考え方を確かめます。圧縮時間にかかわらず、1回の圧縮に1MJのエネルギーを与えるとします。MJはエネルギーの単位で、1MJは100万ジュールです。

仮定した圧縮時間圧縮中の平均電力計算式
3ミリ秒約333MW100万J÷0.003秒
1マイクロ秒1TW(100万MW)100万J÷0.000001秒

同じエネルギーでも、圧縮時間を3000倍に延ばせば、その間の平均電力は3000分の1になります。同じ量の荷物でも、一度に運ぶより時間をかけて運ぶ方が、一瞬に必要な運搬能力を小さくできるのと似ています。

低速圧縮では、短時間に集中して必要になる電力を減らせる可能性があります。ただし、それだけで消費エネルギーや電気代が減るとはいえません。この表は、原理を説明するための独自試算です。LM26の投入エネルギーや電力波形、ほかの装置との実測比較を示したものではありません。

ゆっくり圧縮している間に熱が逃げれば、十分に加熱できなくなります。電力設備を扱いやすくしつつ、プラズマを長く保つという、二つの課題に取り組む必要があります。

残る壁は「さらに押すこと」より「熱を逃がさないこと」

公開論文では、圧縮開始から約3ミリ秒で電子温度がピークに達し、その後は急に下がっています。圧縮を進めるにつれて、温度が上がり続けたわけではありません。[4]

著者らは、プラズマの不安定さ、不純物の混入、磁場を保つ働きの損失などを課題に挙げています。次の成果を見るときは、最高温度に加え、圧縮の後半まで熱とプラズマを保てたかに注目する必要があります。[4]

計測にも課題があります。金属の壁が内側へ動くと、レーザー光を通せる範囲が狭くなります。今回、圧縮がさらに進んだ段階では、AXUV診断で電子温度を追跡しました。[2]

異なる計測方法で加熱の傾向を確認できたことは、成果の裏付けになります。ただし、2本の論文は発表時点では査読に提出された段階でした。UKAEAとの共同計測を、査読の完了や、別の研究機関による独立した追試と同じものとして扱うことはできません。[2]

NIF・ITERとの比較——温度記録とエネルギー収支は別の成果

核融合のニュースには、温度、反応で生まれたエネルギー、将来の出力目標など、意味の異なる数字が並びます。別の方式と比較する際は、数字の大きさを比べる前に、それぞれが何の達成を表しているのかを確認する必要があります。

装置主な方式比較する成果・目標読み取る際の注意
General Fusion「LM26」磁場で保ったプラズマを金属で圧縮今回、電子温度1 keV超を確認温度目標の達成であり、正味の発電を示す値ではない
米国「NIF」高出力レーザーを使う慣性閉じ込め2022年12月、標的に投入した2.05MJに対し、核融合で3.15MJを生成標的に届いたレーザーエネルギーとの比較。施設全体の消費電力を上回ったわけではない
国際計画「ITER」トカマク型の磁場閉じ込め加熱入力50MWに対し、核融合出力500MWを目標とする設計上の目標。ITER自体は電力を生産する計画ではない

NIFの数字は、米ローレンス・リバモア国立研究所の発表に基づきます。独自に計算すると「3.15÷2.05=約1.54倍」です。ただし同研究所は、レーザー施設の消費エネルギーは、標的に届くレーザーエネルギーより大幅に大きいと説明しています。[9]

ITERの目標も、プラズマへの加熱入力と核融合出力を比べたものです。商用発電所では、装置全体で消費する電力と、実際に生産する電力の関係を評価する必要があります。[10]

「高温になった」「反応で投入分を上回るエネルギーが出た」「外部へ電力を供給できた」は、それぞれ異なる成果です。今回のLM26は、最初の温度目標を超えた成果として評価できます。

独自試算:1秒に1回の運転なら、年間約3154万回

同社の商用構想では、液体金属の壁でプラズマを圧縮します。その金属には、核融合で生じる中性子から装置を守る役割、燃料を作る役割、熱を回収する役割も持たせる考えです。[8]

発電所の実現に近づくほど、成功した運転を繰り返せるかが問われます。そこで、実際の運転計画とは切り離し、年間の圧縮回数を試算しました。365日、停止せずに運転する仮定です。

仮定した運転間隔年間の圧縮回数
10秒に1回約315万回
1秒に1回約3154万回

1秒に1回なら、「365日×24時間×60分×60秒=31,536,000回」です。発電所を評価するには、最高温度に加え、何百万回、何千万回もの圧縮に耐えられるかを見る必要があります。この数字は仮定した運転頻度から求めたもので、LM26の実績や、同社が保証する年間回数ではありません。

液体金属を循環させる仕組み、弁やシールの寿命、保守のために運転を止める時間も、経済性を左右すると考えられます。これは本記事の分析です。単発の実験で物理の原理を確かめる段階から、長期間にわたって電力を供給する段階に進むには、別の工学課題を解決する必要があります。

家庭や企業への影響は?2035年は同社の目標

General Fusionは、10 keVへの加熱を経て、ローソン条件の達成を目指しています。ローソン条件とは、核融合でエネルギーを得るために、温度、粒子の密度、熱を保つ時間を組み合わせて考える条件です。温度だけを上げても満たせません。[7]

UKAEAの発表によると、同社は2035年ごろに最初の発電所の運転を始めることを目標にしています。実現には今後の研究開発が必要であり、今回の実験でその時期が保証されたわけではありません。[1]

今回の発表だけでは、家庭の電気料金がいつ下がるか、核融合電力がいくらになるかは判断できません。当面は、次の温度目標、燃料イオンの加熱、熱を保つ性能、繰り返し運転の結果に注目したいところです。

企業にとっては、将来の電源候補である核融合の開発が前進したニュースです。ただし、現在の電力調達や設備計画で、2035年に核融合電力が供給されることを確定事項として扱う根拠にはなりません。供給開始時期や価格を判断するには、発電設備としての実証を待つ必要があります。

LM26は、金属による低速圧縮で電子温度1 keVを超えました。複数の計測方法で加熱を確認できたことは前進です。今後は、その高温を十分に保ち、燃料の反応と繰り返し運転を実際の発電につなげられるかが問われます。

関連ページ

電力を「作る技術」と「使う量を見通す技術」を合わせて読むと、新しいエネルギー技術の位置づけをつかみやすくなります。電力需要や研究成果の読み方については、次の記事も参考になります。

出典・参考資料

測定値は公開論文と公式発表に基づいて記載し、将来の計画と本記事の試算を区別しました。情報確認日は2026年10月11日です。

  1. UKAEA・General Fusion共同発表(2026年10月8日)
  2. General Fusion:電子温度1 keV達成の発表(2026年10月8日)
  3. P. Carleら:Thomson Scattering Measurement of 1 keV Electron Temperature on Lawson Machine 26(2026年10月6日付、公開時点で査読提出段階)
  4. S. J. Howardら:Compressional Heating Above 1 keV on the LM26 Magnetized Target Fusion Machine(2026年10月6日付、公開時点で査読提出段階)
  5. General Fusion:圧縮加熱論文の概要
  6. General Fusion:0.72 keVの圧縮加熱を報告(2026年6月22日)
  7. General Fusion:LM26の開発目標
  8. General Fusion:1 keV達成の意義についてのCEO解説(2026年10月8日)
  9. LLNL:2022年のNIF点火実験と、標的・施設全体のエネルギー収支の違い
  10. ITER:実験の目的と核融合出力の目標

コメントを送信

You May Have Missed