量子技術で電力需要予測が平均20%改善と発表 SQC・Schneiderの実験で何が分かった?

量子技術を既存のAIと組み合わせると、電力需要をより正確に予測できるのでしょうか。オーストラリアのSilicon Quantum Computing(SQC)とSchneider Electricは2026年10月2日、翌日の電力予測で精度が平均20%改善したと発表しました。最大の改善幅は41%としています。[1]

今回報告されたのは、量子技術を加えたモデルによる予測精度の改善です。家庭の電気料金が20%下がったという実験結果ではありません。分かったことと、まだ不明なことを分けて考えると、成果をどこまで評価できるかが見えてきます。

SQCとSchneiderは何を発表したのか

12カ月分の翌日予測データを使った実験で、通常のコンピューターで動く比較モデルより予測精度が平均20%改善したとしています。使用したのは、SQCの量子システム「Watermelon」です。量子システムで作った情報を、従来の予測モデルに加えました。[1]

項目公表された内容
発表日2026年10月2日
対象翌日の電力予測。発表では、電力網から供給される電力の消費量を予測すると説明
データの期間12カ月
比較結果従来モデルに対して平均20%改善、最大41%改善
次の段階オーストラリアの数百世帯へ予測対象を広げ、SchneiderのAI処理に組み込む計画
助成金360万豪ドル。企業発表では、米ドル換算で約250万ドル

出所:SQCの発表とオーストラリア政府の公表資料。改善率は企業が報告した数値であり、本記事で実験を再現して得たものではありません。[1][2]

オーストラリア政府は、重要技術の実用化を支援するCTCPの第2段階に資金を提供します。政府資料では、実現可能性を調べる段階から実証段階へ移ると説明しています。ただし、助成対象に選ばれたことと、独立した検証で性能が確認されたことは別です。[2]

Watermelonとは?既存AIに量子技術で作った手掛かりを加える

Watermelonは、量子の仕組みを使って予測の手掛かりとなる情報を作り、通常の機械学習モデルに渡すシステムです。SQCは「量子特徴量生成器」と説明しています。特徴量とは、AIが予測に使う、数値で表した情報のことです。[3]

一般的な電力予測では、過去の使用量や時刻、気象情報などが手掛かりになります。今回は、そこに量子システムで作った情報を加えます。ただし、この実験で使った入力項目の全容は公表されていません。

たとえるなら、同じ資料を別の方法でも分析し、その結果を予測担当者に渡すような仕組みです。量子システムで作った情報と従来の情報を組み合わせて使います。予測処理のすべてを量子コンピューターに置き換える方式ではありません。

SQCはWatermelonを、時間とともに変化するデータの分析に向く製品と位置付けています。クラウドでの利用と、ハードウェアの購入という形で提供しています。今回の計画では、家庭に量子装置を置くことが条件になっているわけではありません。[3]

「平均20%改善」の意味を判断するには、評価方法の確認が必要

公表資料には評価指標と計算式が示されていないため、「20%改善」が誤差を20%減らしたという意味かどうかは分かりません。比較に使った通常の予測モデルの詳しい構成や、実験の世帯数も不明です。学習用と評価用のデータをどう分けたかも、発表文では確認できません。[1]

電力予測では、正解と不正解を数えるだけでなく、予測値が実際の使用量からどれだけずれたかを測る方法があります。「精度が改善した」という表現だけでは、どの方法で評価したのか判断できません。

考えられる評価方法20%改善の計算例注意点
予測誤差を20%減らす誤差10から8へ。10×0.8=8誤差が2減る。今回この定義を使ったかは不明
精度スコアを相対的に20%上げるスコア80から96へ。80×1.2=96スコアの定義や上限に左右される
正解率を20ポイント上げる正解率80%から100%へ「20%改善」とは異なる表現。今回の結果をこの意味で解釈することはできない

この表は、表現による意味の違いを説明するための独自の計算例です。実験で誤差が10だった、あるいは精度が80だったという意味ではありません。実測値が公表された場合は、使われた指標に沿って結果を読み直す必要があります。

最大41%という数値も、平均値ではありません。どの世帯、時期、条件で得られた最大値なのかは不明です。すべての家庭で同じ改善幅が得られるとは判断できません。

独自計算:太陽光発電があると、購入電力量の予測誤差は大きく見える

家庭で使う電力と、電力会社から買う電力は異なります。太陽光発電によって購入量が少なくなると、予測のずれが同じでも、購入量に対する誤差の割合は大きくなります。電力網からの消費量を予測した成果を読む際には、この違いに注意が必要です。

ここでは蓄電池や売電を考慮せず、1時間の電力量を考えます。家庭で10kWhを使い、そのうち8kWhを太陽光発電で賄った場合、電力網から買う量は2kWhです。kWhは、使った電気の量を表す単位です。

家庭の使用量を正しく予測していても、太陽光発電による供給量を6kWhと見積もると、購入量の予測は4kWhになります。実際の購入量は2kWhなので、2kWh多く見積もったことになります。

説明用の条件実際の購入量予測した購入量購入量に対する誤差の割合
太陽光発電による供給量が実際は8kWh、予測は6kWh。使用量はどちらも10kWh2kWh4kWh2÷2×100=100%
太陽光発電なし。使用量が実際は10kWh、予測は12kWh10kWh12kWh2÷10×100=20%

どちらもずれは2kWhですが、誤差の割合は100%と20%になります。これは本記事で仮定した条件による計算で、SQCの実測値ではありません。購入量がゼロに近い場合は、割合だけでは精度を評価しにくくなることが分かります。

次の実証では、誤差の割合と、kWhで表したずれの両方を確認したいところです。購入量が少ない時間帯と、夕方など購入量が多い時間帯を分けて評価することも必要です。平均値だけを見ると、実際の運用で困る時間帯にどれだけ改善したかを見落とす可能性があります。

独自計算:家庭ごとの改善と、地域全体の改善は同じではない

家庭ごとの予測が外れていても、多く見積もった分と少なく見積もった分が打ち消し合い、地域全体では実際の値と合う場合があります。家庭の蓄電池を動かすための予測精度と、地域の供給量を決めるための予測精度は、分けて評価する必要があります。

たとえば、同じ1時間にA宅とB宅がそれぞれ4kWhを買ったとします。予測がA宅では5kWh、B宅では3kWhなら、各家庭で1kWhずつ外れています。しかし、予測の合計は8kWhで、実際の合計と一致します。

対象実際の購入量予測値ずれ
A宅4kWh5kWh1kWh多い
B宅4kWh3kWh1kWh少ない
2世帯の合計8kWh8kWh0kWh

この例も、仕組みを説明するための独自計算です。反対に、すべての家庭で同じ方向に予測が外れると、地域全体でもずれが残ります。天候の変化など、複数の家庭に共通する条件をどう扱うかが重要になります。

数百世帯に対象を広げる実証では、家庭単位と地域全体の両方で評価すると、成果の意味がより明確になります。家庭単位の改善率だけを見て、地域の電力調達も同じ割合で改善すると考えることはできません。

過去事例・他社比較:同じ「20%」でも測っている成果が違う

SQCの電力予測とGoogle DeepMindの風力発電では、同じ20%でも対象と評価指標が異なります。数字の大小だけでは、量子技術と通常のAIの優劣を決められません。

SQCは2025年10月、通信会社Telstraとの実験も発表しています。Watermelonを使ったモデルで、深層学習モデルと同程度の予測精度を得たとしています。学習と調整にかかった時間は、比較モデルでは数週間だったのに対し、Watermelonを使ったモデルでは数日だったと説明しました。[4]

Google DeepMindは2019年、風力発電の出力を36時間先まで予測する取り組みを公表しました。予測を翌日の供給計画に活用し、供給する時間をあらかじめ約束しない場合に比べ、風力電力の価値を約20%高めたとしています。これは、予測精度そのものの改善率ではありません。[5]

事例技術・対象公表された成果比較時の注意
SQC・Schneider、2026年量子技術と通常のAIを組み合わせ、翌日の電力を予測予測精度が平均20%、最大41%改善評価指標や比較モデルの詳細が不明
SQC・Telstra、2025年量子技術を通信ネットワークの予測に利用同程度の精度で、学習・調整が数週間から数日へ通信の実験であり、電力予測の処理時間を示すものではない
Google DeepMind、2019年通常の機械学習で風力発電の出力を予測し、供給計画に活用風力電力の価値が約20%向上経済価値の比較であり、精度の20%改善とは異なる

出所:各社の公式発表。対象、時期、比較条件が異なるため、同じ性能試験に基づく順位付けではありません。[1][4][5]

本記事では、量子技術の価値を「精度」「処理時間」「運用で得た利益」に分けて考えます。一つが改善したからといって、ほかも同じように改善するとは限りません。今回の発表から、電力予測の計算時間や総消費電力まで20%減ったとはいえません。

独自試算:導入費用の回収は、予測を運用にどう生かすかで決まる

予測精度が上がっても、その予測を使って電力の購入や蓄電池の動かし方を変えなければ、節約につながるとは限りません。実用化を判断するには、精度に加え、追加費用を差し引いた収支を確認する必要があります。

節約額の規模をつかむため、100世帯を対象にした仮の計算をします。運用を改善し、1世帯当たり毎日0.5kWhの電力購入を別の時間帯に移せたとします。移す前と後の実質的な費用差は、1kWh当たり20円と仮定します。

年間の節約額は、100世帯×0.5kWh×20円×365日=36万5,000円です。1世帯当たりでは年間3,650円、月平均で約304円になります。

仮定する項目値
対象世帯数100世帯
1世帯・1日当たり別の時間帯に移せた購入量0.5kWh
移す前と後の実質的な費用差20円/kWh
年間の節約額全体で36万5,000円
単純な損益分岐点全体の追加費用が年間36万5,000円未満なら、この仮定では差し引きの収支がプラス

これはSQCの料金や節約実績を示すものではなく、平均20%という発表値から換算したものでもありません。実際には、予測の改善によって電力を購入する時間をどれだけ変えられるか、運用実験で測る必要があります。

追加費用には、量子システムの利用料、既存システムとの連携に必要な開発費、保守費などが含まれます。蓄電池を使う場合は、充放電による損失や劣化も考慮します。導入時の費用も、使用する年数に応じて年額に換算すれば、採算を比較しやすくなります。

予測の改善によって、料金が高い時間帯の購入をより多く避けられれば、利益が大きくなる可能性があります。「20%改善したから得だ」と判断するのではなく、運用によって増えた利益が追加費用を上回るかを確かめる必要があります。

反証:量子技術そのものの効果を確かめるには何が必要か

「量子技術を加えたモデルが比較モデルを上回ったこと」と、「量子技術によって上回ったこと」は、分けて確かめる必要があります。追加した情報の量や、調整にかけた時間によっても、比較結果が変わる可能性があるためです。

以下は、今回の企業発表を踏まえ、本記事で考えた追加検証案です。SQCがこれらを実施していないと断定するものではありません。公開資料では実施状況が分からないため、今後確認したい条件として整理しました。

確かめたいこと追加する比較・検証分かること
量子由来の情報に独自の効果があるか通常の計算でも同程度の数の特徴量を追加し、同じ予算で調整する単に入力情報や調整を増やした効果との違い
未来の情報を使わず予測できるか予測時点で入手できた気象予報を使い、過去から未来の順に評価する後から分かった情報による見かけ上の改善を除外できる
学習に使っていない家庭でも役立つか学習に使わなかった世帯や地域で評価する特定の家庭だけに適したモデルかどうか
必要な時間帯で改善するか夕方の需要増加時や天候急変時を別に集計する年間平均では見えない運用上の効果
通常のAIより採算がよいかデータ処理、量子システムへの接続、予測、設備制御を含む総費用を比較する予測を実際の運用に生かすまでの費用対効果

これらの条件をそろえても改善が確認できれば、成果を裏付ける根拠が強まります。通常のAIを十分に調整した結果、差が縮まるのであれば、量子技術を導入する理由は弱まります。どちらの結果も、実用化を判断するための材料になります。

読者への影響:家庭への効果は、数百世帯の実証で見えてくる

家庭にとって次に確かめたいのは、予測精度の改善が電気料金や使い勝手の改善につながるかどうかです。第2段階では、対象を数百世帯に広げる計画が示されています。今後の計画であり、その規模での成果がすでに確認されたわけではありません。[1]

太陽光発電、蓄電池、EVがある家庭では、電気をいつ買うか、いつ充電するかを判断する際に役立つ可能性があります。ただし、料金契約や設備の容量によって効果は変わります。予測が正しくても、電力を購入する時間を変えられない家庭では、得られる利益が小さい場合があります。

電力サービスを提供する企業にとっては、既存のAIに新しい予測の手掛かりを加える選択肢になります。ただし、利用料やシステム連携の費用も増えます。量子技術の採用そのものを目的にせず、現在の運用と比べてどれだけ利益が増えるかを確認する必要があります。

日本でも同じ仕組みを応用できる可能性はあります。ただし、日本の気候、料金制度、住宅設備でも同じ改善率が得られるかは分かりません。日本向けの提供時期や、家庭の電気料金をどれだけ減らせるかは、今回確認した発表には示されていません。

まとめ:20%改善は、実用化に向けた成果として捉える

今回の発表は、既存AIに量子由来の情報を加える実験で、予測精度が改善したという企業の報告です。量子技術を実際の業務に組み込む取り組みとして注目されます。今後は、評価方法と費用が公開されれば、実用性を判断する材料が増えます。

  • 12カ月分の翌日予測データを使い、精度が平均20%、最大41%改善したと報告した。
  • 評価指標や比較条件の詳細は不明で、誤差削減率や料金削減率として解釈することはできない。
  • 次の実証では、家庭単位と地域全体それぞれの予測精度、運用で得た利益、追加費用を確認したい。

関連ページ

AIと電力の関係や、実験結果を読む際の注意点は、次の記事でも解説しています。

出典・参考資料

発表された数値は一次情報に基づいて記載し、説明用の計算、採算の試算、追加検証案は本記事の分析として区別しています。確認日は2026年10月4日です。

  1. Silicon Quantum Computing「SQC and Schneider Electric Use Hybrid Quantum-Classical Models to Improve Energy Forecasting」、2026年10月2日。
    https://sqc.com/news/sqc-and-schneider-electric-energy-forecasting
  2. オーストラリア産業・科学・資源省の大臣発表「Albanese Government backs Aussie quantum projects with $12 million」、2026年10月2日。
    https://www.minister.industry.gov.au/charlton/media/albanese-government-backs-aussie-quantum-projects-12-million
  3. Silicon Quantum Computing「Products」。Watermelonの機能と提供方法を参照。
    https://sqc.com/products
  4. Silicon Quantum Computing「Telstra and SQC Explore Smarter Network Prediction」、2025年10月13日。
    https://sqc.com/news/telstra-and-sqc-explore-smarter-network-prediction
  5. Google DeepMind「Machine learning can boost the value of wind energy」、2019年2月26日。
    https://deepmind.google/blog/machine-learning-can-boost-the-value-of-wind-energy/

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