カプコンの「REX」は、ゲーム開発を支える基盤を改良するプロジェクトです。AIによる開発支援や自動テストを取り入れやすくし、大規模なゲームを制作する際の負担を減らすことを目指しています。
2026年10月2日に開催された「CAPCOM オープンカンファレンス RE:2026」では、REXの展望が取り上げられました。公式資料では、開発規模の拡大、利用者の増加、AI技術への対応が課題として挙げられています。[1][2]
REXで注目したいのは、AIにゲームを丸ごと作らせることよりも、人が試し、確かめ、作り直すための時間を増やすことです。ただし、開発期間をどれだけ短縮できるかは、確認した公開資料では分かりません。発表された仕組みと、今後期待される効果は分けて考える必要があります。
REXとは?RE ENGINEを段階的に進化させる計画
REXは、既存のRE ENGINEを生かしながら、新しい技術を順次取り入れていく計画です。名称は「RE neXt ENGINE」に由来します。[2][3]
ゲームエンジンは、映像や音、キャラクターの動きなどを扱う基本システムです。開発者がゲームを編集し、動作を確かめるための道具も含まれます。プレイヤーには見えないこうした仕組みも、ゲームの作りやすさを左右します。
RE ENGINEの開発は2014年に始まり、2017年に最初の採用作品である『バイオハザード7』が発売されました。現在の開発環境では、当時より多くのデータやプログラムを扱う必要があります。[2][4]
REXの構想も、今回初めて発表されたものではありません。2023年の公式講演資料には、すでに名称と段階的な導入方針が記載されています。当時から進めてきた開発基盤の改良に、AI技術への対応が加わったと考えると分かりやすいでしょう。[3]
AIで素材を作ることと、開発を助けることは違う
カプコンは、生成AIで作った素材をゲームコンテンツに組み込まない方針と、開発工程でAIを活用する方針を分けて説明しています。この方針は、2026年2月16日に開催された個人投資家向け説明会の資料で確認できます。[5]
たとえば、AIに完成版のキャラクター画像を描かせることと、プログラムのエラーを探させることでは、用途が異なります。社内資料を検索するAIも、完成したゲームに使う絵や音を生成するAIとは役割が違います。
決算補足資料でも、AIは定型的な仕事を効率化する補助ツールと位置付けられています。用途として挙げられているのは、情報収集、対話型マニュアル、エラーチェックなどです。参考素材の生成も含まれますが、完成版への採用とは区別する必要があります。[6]
| AIの使い方 | 対象 | 今回の話との関係 |
|---|---|---|
| 完成版の素材を生成する | ゲームに収録する画像や音など | 生成素材を組み込まない方針が示されている |
| 開発者を支援する | 資料検索、エラー確認、定型作業など | 業務効率化を目的とした活用の対象 |
| AIがテストプレイする | ゲームの動作や進行 | 自律プレイAIによる品質確認が紹介されている |
| ゲーム内でAIを動かす | 敵や登場人物の判断など | 開発支援やテストとは別の用途 |
用途を区別しないと、「AIを使う」という言葉で異なる技術をひとまとめにしてしまいます。REX全体を、画像生成AIのような一つの製品として捉えるのも適切ではありません。
2,000人の「少し待つ」を減らすと、どれほど違うのか
開発者が多いほど、毎日の小さな待ち時間を減らしたときの効果は大きくなります。公式資料によると、RE ENGINEのアクティブユーザーは2,000人を超えています。アセットの取得や編集画面の操作、プログラムのビルドに時間がかかることも課題です。アセットとは、画像や3Dモデルなどの制作データを指します。[2]
ゲーム制作は、一度作れば終わるものではありません。敵の動きを変え、ゲームを実行して遊び、確かめたうえでまた直します。そのたびに待ち時間が発生すると、試せる案も減ってしまいます。
そこで、利用者を2,000人、年間の作業日数を240日として試算しました。全員が毎日同じ時間を短縮できると仮定した計算であり、カプコンが公表した実績や予測ではありません。
| 1人が1日に短縮できる時間 | 2,000人の1日合計 | 年間240日の合計 |
|---|---|---|
| 1分 | 約33.3時間 | 8,000時間 |
| 5分 | 約166.7時間 | 40,000時間 |
| 15分 | 500時間 | 120,000時間 |
計算式は「2,000人×短縮する分数×240日÷60」です。1日5分なら、年間40,000時間になります。1人が1日8時間働くとして換算すると、延べ5,000人日です。
ただし、待っている間に別の仕事をしていれば、短縮した時間をすべて別の作業に回せるわけではありません。会社全体で短縮した時間から、一つの作品の発売をどれだけ早められるかを直接計算することもできません。
こうした制約はあっても、小さな操作の改善を軽視できないことは分かります。AIに大きな企画を丸ごと任せなくても、共通の道具を改善すれば、多くの開発者が日々の作業で恩恵を受けられます。
RE:Doxの公開データから見る「速くなる」の範囲
REXを構成する技術には、AIによる生成に加え、データ処理そのものを改善するものもあります。カプコンが公開した「RE:Dox」は、その一例です。複数の形式のデータを共通の内部構造で扱う仕組みで、REXの主要な構成要素の一つと説明されています。[7]
公開ページには、Microsoftの「System.Text.Json」と比較した測定結果があります。比較しているのは、保存されたデータをプログラムで使える形に戻す処理です。ゲーム全体の動作速度を測ったものではありません。
| canada.jsonの読み戻し処理 | 公開値をミリ秒に換算 | 標準処理に対する時間削減率 |
|---|---|---|
| System.Text.Json | 約15.303ミリ秒 | 比較基準 |
| RE:Dox | 約9.113ミリ秒 | 約40.4% |
| RE:Doxの並列処理 | 約5.385ミリ秒 | 約64.8% |
削減率は「1−RE:Doxの処理時間÷標準処理の時間」で独自に計算しました。測定環境はWindows 11、.NET 10、Ryzen Threadripper PRO 5975WXです。この数値は、使用したデータと測定環境で得られたもので、一般的なPCで同じ効果が出ることを保証するものではありません。[7]
一部の処理が速くなっても、全体の所要時間が同じ割合で短くなるとは限りません。仮に、ある作業の待ち時間の40%をデータ処理が占めるとします。その部分が2倍速くなっても、全体の待ち時間は「残り60%+40%÷2=80%」です。
つまり、全体の待ち時間は20%減り、速度は1.25倍になります。これは説明用の仮定であり、REXの実測値ではありません。RE:Doxの測定値を、そのままゲームのフレームレートや開発期間に当てはめることはできません。
自律プレイAIは、画面と音を手掛かりにゲームを確かめる
AIがゲームを遊ぶ仕組みは、完成品に近い状態で不具合を探すためにも使われます。カプコンの公式案内では、画面と音を手掛かりに判断する自律プレイAIが紹介されています。[2]
QAは、ゲームが期待通りに動くかを確かめる品質保証の仕事です。公式資料では、最終的な品質を確認する製品ビルドで、内部データにアクセスできないことが課題として挙げられています。ビルドとは、実際に動かせる形にまとめたゲームです。[2]
内部情報を直接読み取れるテストなら、「敵の残り体力はゼロか」を確認できます。画面と音を使うテストでは、プレイヤーにも見える結果を手掛かりに判断します。両者では、確認できる内容も、誤りが生じる場面も異なります。
カプコンの説明によると、自律プレイAIは、すぐに反応する仕組みと、先を見据えて行動を考える仕組みを組み合わせています。後者には、文章などを扱うAIであるLLMと、資料を検索して回答に活用するRAGが含まれます。[2]
細かな操作と、その先にある目的を分けて扱うための構成です。ただし、人の思考を参考にした構造だからといって、人と同じ理解力があると証明されたわけではありません。
14言語のテストは、条件を増やすと3,360通りになる
ゲームのテストが難しくなるのは、ゲーム内の場所に加え、言語や機器などの条件の組み合わせが掛け算で増えるためです。カプコンの公式プログラムには、14言語での同時リリースを支えるシステムについての講演もあります。[1]
この14言語をもとに、テストの規模を考えてみます。機器を3種類、画質設定を4段階、確認するセーブ状態を20種類と仮定すると、条件の組み合わせは次のようになります。
14言語×3種類の機器×4段階の画質設定×20種類のセーブ状態=3,360通り
各条件で一つの確認に5分かけるなら、順番に実施した場合の所要時間は280時間です。これは条件数を説明するための独自試算であり、カプコンの実際の検査項目数や所要時間ではありません。
すべての組み合わせを必ず試す必要があるとは限りません。確認内容に関係しない条件を省いたり、問題が起こりやすい組み合わせを優先したりする方法もあります。それでも、新しい条件が加わるたびに確認対象が増える構造は変わりません。
AIには、人より速くボタンを押すことに加え、人が画面を見続ける負担を減らし、同じ確認を繰り返しやすくする役割も期待できます。ただし、同じルートばかり通るAIでは、想定外の遊び方を十分に試せません。
過去の画像比較テストから、行動を選ぶAIへ
カプコンは、今回のAI構想より前から、自動テストを使って小さな変更に伴う不具合を防いできました。2023年の公式資料では、映像効果を画像で比較する自動チェックが紹介されています。[8]
この仕組みでは、あらかじめ用意した基準画像と、変更後の画像を比べます。何度実行しても同じ結果が得られるように、乱数や再生条件もそろえています。人が見逃しやすい違いを探す方法です。[8]
これに対し、自律プレイAIは状況に応じて行動を選びます。本稿では、両者の役割の違いを整理しました。次の表は、カプコンが公表した性能順位ではありません。
| 方法 | 向いている確認 | 補う必要がある部分 |
|---|---|---|
| 基準画像との比較 | 決まった場面の見た目の変化 | 意図した変更と不具合を区別する |
| 決まった操作の自動実行 | 同じ手順で問題が再発しないか | 手順から外れた遊び方を試す |
| 自律プレイAI | 状況に応じた操作や移動の確認 | 結果の再現性と判断の正しさを確かめる |
| 人によるプレイ | 面白さ、分かりやすさ、違和感 | 大量の反復確認を自動化で補う |
新しいAIで、従来の自動チェックをすべて置き換える必要はありません。確実に比較できる部分には決まった手順のテストを使い、幅広い行動を試したい部分にはAIを使う方が、結果を検証しやすいと考えられます。
UnityやUbisoftと比べると、REXの特徴が見える
開発工程にAIを組み込む動きは、カプコン以外にも広がっています。REXの特徴は、自社の共通基盤を改良する計画と結び付いていることです。各社の取り組みを比較する際は、完成品に使う素材の生成と、作業支援やテストを分ける必要があります。
Unityは2026年5月の公式記事で、開発画面に組み込んだAI Assistantについて説明しています。紹介されているのは、質問に答えるAsk、実行前に計画を確認するPlan、変更を実行するAgentの各モードです。[9]
Ubisoftも、2022年の公式記事で、ゲームのテストに使うAIボットの研究について説明していました。テスト用のAIと、プレイヤーが対戦する敵のAIは分けて説明されています。AIにゲームを遊ばせること自体は、新しい発想ではありません。[10]
| 企業・取り組み | 公式資料で確認できる用途 | 比較するときの注意点 |
|---|---|---|
| カプコン/REXと関連技術 | 自社エンジンの改良、開発支援、自律プレイQA | 構成技術ごとに導入状況や効果を確認する |
| Unity/AI Assistant | 質問、計画、コードやシーンの変更 | 参照した記事はベータ版の説明 |
| Ubisoft/La Forge | テスト用ボットの研究 | 研究内容を製品全体の導入実績と同一視しない |
各社で目的も公開段階も異なります。今回確認した資料だけでは、同じ作業に対する時間短縮率を比較できません。「どのAIが優秀か」と順位を付けるより、何を任せ、結果をどう確認するかに注目する方が役立ちます。
AIを導入するだけでは速くならない理由
AIの導入効果を評価する際は、短縮できた作業時間から、確認や修正のために増えた時間を差し引く必要があります。生成が速くても、正しい成果が早く完成するとは限りません。
例として、AIで30分の作業を減らせたとします。結果の確認に20分、間違いの修正に15分かかれば、「30−20−15=マイナス5分」となり、かえって所要時間が増えます。これはカプコンの実績ではなく、評価方法を説明するための仮定です。
テストでも、AIが「成功した」と報告するだけでは不十分です。目的の場所に到着したのか、イベントが進んだのか、途中で止まっていないかを別途確認する必要があります。
たとえば、「扉を通った後も操作できるか」を検査するなら、映像と操作履歴を残します。不具合を見つけた際には、使用したゲームのバージョン、開始時のセーブデータ、入力した操作も記録します。こうすれば、開発者が同じ問題を再現しやすくなります。
この考え方に基づき、本稿ではREXの今後を三つの指標で評価することを提案します。「正しい結果が出るまでの時間」「見つけた不具合を再現できる割合」「修正後に再発を見つけられるか」です。これらはカプコンが公表した指標ではありません。
エンジンの改良やAIの導入には、移行や教育の負担も伴います。既存の仕組みとの互換性を確かめる作業も必要です。段階的に導入すれば影響を確認しやすくなりますが、それだけで失敗を防げるわけではありません。
プレイヤーには何が変わる?発売日より品質に注目
プレイヤーへの効果は、AIの使用量よりも、不具合や動作の問題がどれだけ減ったかで判断すべきです。今回確認した資料では、発売が早まることや、ゲーム価格が下がることは約束されていません。
期待されるのは、修正後の確認を繰り返しやすくなることです。更新によって以前の不具合が再発していないか、多言語で表示が崩れないか、操作の違いで進行が止まらないか。こうした検査が充実すれば、プレイヤーの体験の改善にもつながる可能性があります。
ただし、開発を効率化しても、浮いた時間をゲームの内容を増やすために使えば、発売日は変わりません。AIによるテストが増えても、試すPC環境や操作の種類に偏りがあれば、問題は残ります。効果は実際の製品と更新内容で確かめる必要があります。
PCユーザーは、REXの発表だけを理由にグラフィックボードを買い替える必要はありません。開発ツールが速くなることと、手元のゲームの動作が改善することは別です。購入を判断する際は、遊びたい作品の動作要件と、実機での測定結果を参考にする方が確実です。
クリエイターにとっても、試行錯誤のしやすさは大きな意味があります。映像や音、ゲームの手触りは、何度も確かめながら仕上げるものです。AIで定型作業を減らせた場合、その時間をどれだけ作品の調整に回せるかが問われます。
REXの価値は、作る・試す・直す循環を速くすること
REXは、AIがすべてを作る未来に先立ち、人とAIが作業を分担できる開発環境を整える取り組みと捉えると、その意義が分かります。データ処理、開発ツール、資料検索、テストを改善し、人が試せる回数を増やすことを目指しています。
2,000人が使う道具なら、数分の短縮にも意味があります。ただし、一部の処理の高速化をゲーム全体の性能向上と混同してはいけません。AIの結果を確認し、修正する時間も含めて、効果を見極める必要があります。
今後注目したいのは、どの技術をどの工程に導入し、何が改善したのかという具体的な報告です。完成したゲームの品質につながって初めて、プレイヤーもREXの価値を実感できます。
関連ページ
AIエージェントの判断を検証する仕組みや、開発現場の知識を参照する仕組みも、今回の取り組みに関係します。背景を知るための関連ページです。
- FTCがOpenAI・Anthropicなどを調査 AIエージェントの事故で企業に何が問われる?
- カプコン公式:REAssistAIや自律プレイQAを含むRE:2026の講演案内
- カプコン公式:エフェクトを安定動作させる自動チェックの取り組み
出典・参考資料
本記事は2026年10月4日時点で確認できた公式資料を中心に作成しています。独自計算と説明用の仮定は、カプコンの実績や予測と区別して記載しました。
- 株式会社カプコン:CAPCOM オープンカンファレンス RE:2026の開催・講演案内(2026年7月6日)
- 株式会社カプコン:REXと自律プレイAIの講演紹介
- カプコン技研:RE ENGINE’s Past and Future(RE:2023、スライド34~35)
- カプコン:統合報告書2025・開発体制/RE ENGINE
- カプコン:個人投資家向けオンライン会社説明会 質疑応答概要(2026年2月16日開催)
- カプコン:2026年3月期 決算補足資料・生成AIの活用
- CAPCOM-TD-OSS:RE:Dox公式リポジトリ・READMEの性能比較
- カプコン技研:エフェクトを安定動作させる「自動チェック」への取り組み(2023年)
- Unity:AI AssistantのAsk・Plan・Agentモードの説明(2026年5月6日)
- Ubisoft:La ForgeのAI・テスト用ボットに関する公式記事(2022年)



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