GPUの次は「メモリの壁」 Volantisが光でつなぐAI基盤に8800万ドル調達

AIの処理を速くするには、計算チップの性能に加え、必要なデータを素早く届ける仕組みが求められます。米半導体企業Volantisは2026年10月1日、8800万ドルの資金調達を発表しました。同社は、計算チップとメモリを光でつなぐAI基盤を開発しています。[1]

狙いは、巨大なAIモデルを保存できる容量と、データを取り出す速さを同時に高めることです。最初のシステム「A-1」は、2027年に顧客へ提供する計画です。ただし、同社が公表する性能値と、第三者が同じ条件で検証した結果は区別する必要があります。[1]

この技術によってGPUが不要になるわけではありません。計算性能を十分に生かすために、メモリと接続方法を変える取り組みです。公式資料をもとに、必要な容量、帯域幅、電力、仕事全体にかかる時間を計算します。

Volantisは何に8800万ドルを使うのか

今回の資金は、AIの回答生成を担うA-1の開発と事業化に使われます。今回の調達は、事業の成長に向けて投資家から資金を集める「シリーズA」にあたります。技術者の増員と、顧客への導入準備も進めます。[1]

項目公式発表の内容
今回の調達額8800万ドル
累計調達額9700万ドル
主導した投資家Lachy Groom、Abstract Ventures
開発する製品AIの推論向けシステム「A-1」
顧客への提供計画2027年

累計調達額は、同社の公式ブログに記載されています。今回調達した8800万ドルと、これまでに調達した総額9700万ドルは区別して見る必要があります。[2]

推論とは、学習済みのAIが質問に答えたり、コードを書いたりする処理です。Volantisは、この推論を速く、低コストで実行する市場を狙っています。

「メモリの壁」は、容量不足だけを意味しない

AIでは「保存できる量」と「取り出せる速さ」が、それぞれ性能を制限します。メモリ容量を増やせば、巨大なモデルを保存しやすくなります。しかし、データを運ぶ経路が狭いままでは、計算チップに待ち時間が生じます。

料理店にたとえると、GPUは調理場、メモリは食材の保管場所です。保管場所を広げても、調理場まで運ぶ通路が狭ければ、料理を作る速さは上がりません。逆に、通路だけを広げても、必要な食材を保管できなければ困ります。

制約何が足りないのかAIへの影響
メモリ容量モデルや処理中の情報を保存する場所巨大なモデルや長い入力を扱いにくい
メモリ帯域幅1秒間に運べるデータ量計算部分でデータ待ちが発生する
チップ間の通信複数の計算チップが情報を交換する経路分散した処理の受け渡しに時間がかかる

NVIDIAも、AIが文章を順に生成する段階では、メモリからのデータ転送が処理時間を左右すると説明しています。入力をまとめて読み込む段階とは、負荷のかかり方が異なります。[5]

メモリの問題は、GPUの進歩に続いて初めて現れたものではありません。以前からある制約が、巨大なモデルや長時間にわたる推論で目立ちやすくなっています。

光でつなぐと、なぜメモリを増やせるのか

Volantisが光に置き換えるのは、計算チップとメモリの間でデータを運ぶ部分です。AIの計算をすべて光で行う製品とは仕組みが異なります。光で接続することで、より多くのメモリをまとめて利用する設計です。[3][4]

同社の技術資料では、比較対象となる電気配線で接続できる距離を約2〜5mmと説明しています。これに対し、独自の光の経路は200mm以上に延ばせるとしています。接続範囲を広げ、220個を超えるメモリ用の小さなチップを、一つのメモリ群として扱う構想です。[4]

この距離は、同社が比較している半導体の実装方式に関する値です。電気配線全般が5mmまでしか使えないという意味ではありません。また、メモリ用チップの個数だけで、容量やAIの処理速度が決まるわけでもありません。

光源には、独自のmicro-VCSELを使います。VCSELは、半導体の表面方向に光を出す小さなレーザーです。同社は光源を組み込み、外付けレーザーを使わない方式を採用しています。[4]

競合もメモリと通信を改善している

Volantisの特徴は、光通信のなかでも、計算チップとメモリを結ぶ用途に重点を置いていることです。既存のGPUでも、メモリの改良やチップ間通信の高速化が進んでいます。光による接続を開発している企業も、Volantisだけではありません。

企業・方式取り組みの中心比較するときの注意点
Volantis光接続で多数のメモリをまとめ、容量と帯域幅を増やすA-1全体の性能と、光接続単体の測定結果を分ける
NVIDIA RubinHBM4という高速メモリと、GPU間通信などを組み合わせるGPU1基の仕様と、ラック全体の仕様を分ける
Ayar LabsTeraPHYと光源SuperNovaを使った光入出力接続部品の帯域幅を、AI装置全体の性能と混同しない

NVIDIAは、メモリに加えて、データ移動を管理する機能や通信も改良しています。Ayar Labsは、TeraPHYの接続安定性や温度変化への耐性について、試験結果を公開しています。両社とも、計算能力の向上と並行して、データを運ぶ仕組みの改善に取り組んでいます。[6][8]

Volantisが成功するには、光を使うことに加え、実際の効果を示す必要があります。同じAIモデルと応答品質で、速度、費用、電力をどれだけ改善できるかが問われます。

過去事例:VCSELはスマートフォンで量産されてきた

VCSELにはすでに量産基盤があり、まったく未知の部品を一から開発するわけではありません。Appleは2017年12月、Finisarへの3億9000万ドルの支援を発表しました。VCSELの研究開発と量産を拡大するためです。[9]

当時の発表では、iPhone XのFace IDなどでの利用も説明されています。ただし、顔を測定する用途と、高密度なAIメモリ接続では、求められる条件が異なります。既存の供給網を使えることは強みですが、A-1の量産成功を保証するものではありません。

独自計算①:20兆パラメータは、保存だけで何TB必要か

20兆パラメータのモデルは、重みを保存するだけでも、4ビットで約10TB、16ビットなら約40TBが必要です。パラメータとは、AIの振る舞いを決める数値です。必要な保存容量は、パラメータの個数と、1個あたりに使うビット数で決まります。

Volantisは、20兆パラメータを超えるモデルへの対応を掲げています。一方、製品ページに記載されたA-1のメモリ容量は10TBです。両者の関係を確かめるため、まずパラメータ数を20兆ちょうどとして計算します。[1][3]

重みの保存形式1パラメータあたり20兆個の保存容量10TBとの関係
4ビット0.5バイト約10TB重みだけで容量を使い切る
8ビット1バイト約20TB保存容量だけでも10TBの2倍が必要
16ビット2バイト約40TB保存容量だけでも10TBの4倍が必要

計算式は「パラメータ数×ビット数÷8」です。TBは1兆バイトとして扱いました。これは重みだけの概算で、処理中の情報や管理用データは含みません。

量子化とは、数値を少ないビット数で表す方法です。Hugging Faceの公式資料でも、4ビットや8ビットへの量子化によって、必要なメモリを減らせると説明しています。ただし、保存時と計算時の形式が、常に同じとは限りません。[10]

入力や生成済みの内容を再利用するための「KVキャッシュ」にも、容量が必要です。入力が長くなったり、同時利用者が増えたりすると、この領域も大きくなります。20兆を超えるモデルでは、重みの保存容量も表の値を上回ります。[5]

したがって、「20兆超対応」という説明から、「10TBのA-1が1台あれば、どの保存形式でも動く」とは判断できません。量子化の方法、複数台での構成、重みの配置方法などを確認する必要があります。ただし、この容量計算だけで、同社の構想に矛盾があるとも断定できません。

必要な一部の計算担当だけを選ぶ「MoE」というモデルでも、注意が必要です。1回の生成で使うパラメータは減らせますが、モデル全体をメモリに置く構成では、その生成で使わない重みも保存しておく必要があります。[11]

独自計算②:240TB/秒を「GPUより速い」と読んでよいか

A-1全体の帯域幅とGPU1基の帯域幅を比べても、AI処理の優劣は決まりません。Volantisは、A-1の容量を10TB、帯域幅を240TB/秒と公表しています。いずれも装置全体の公表値です。[3]

NVIDIAの英語版製品ページには、Rubin GPU1基の容量が288GB、帯域幅が19.2TB/秒と記載されています。以下の表では、この値を使います。装置の規模が異なるため、容量に対する帯域幅も計算しました。[7]

比較対象容量帯域幅帯域幅÷容量
A-1全体の公表値10TB240TB/秒毎秒24回分
Rubin GPU1基の製品ページ記載値0.288TB19.2TB/秒毎秒約66.7回分

最後の列は、メモリの全容量に相当する量のデータを、理論上1秒間に何回運べるかを表した目安です。240÷10=24、19.2÷0.288≒66.7となります。全データを実際に読み出す速度や、トークンの生成速度を測った値ではありません。

容量そのものはA-1が約34.7倍、帯域幅は12.5倍です。ただし、容量と帯域幅は同じ倍率では増えていません。A-1が目指す、巨大なモデルを大容量のメモリに保存できる利点と、そのデータを処理する速さは、分けて評価する必要があります。

NVIDIAの技術ブログには、Rubinの帯域幅を最大22TB/秒とする記載もあります。この値を使うと、容量に対する帯域幅は毎秒約76.4回分です。公開資料によって数値が異なるため、実機を比較する際は、製品構成と仕様の版をそろえる必要があります。[6]

なお、この計算からA-1が遅いと判断することもできません。実際の速度は、使う重みの量、データの再利用、同時処理数にも左右されます。巨大なMoEでも、全パラメータを毎回読み出すわけではありません。

独自計算③:「1ビットあたり省電力」でも、通信電力はゼロにならない

光接続の効率が高くても、膨大な量のデータを運ぶ際の消費電力は無視できません。Volantisは、接続で消費するエネルギーを1ビットあたり1ピコジュール未満と説明しています。1ピコジュールは、1兆分の1ジュールです。[1]

公表された240TB/秒のデータを実際に転送すると仮定し、1ビットあたり1ピコジュールを基準に計算すると、次の値になります。

240兆バイト/秒×8ビット×1兆分の1ジュール=1920W

これは約1.92kWです。ただし、A-1の通信電力を測定した結果ではありません。帯域幅とエネルギー効率の数値が同じ範囲の転送を指すと仮定し、電力の規模をつかむために計算したものです。「1ピコジュール未満」を満たすなら、この条件でのリンクの消費電力は基準値を下回ります。

製品ページでは、A-1の電力枠を20kWとしています。1920Wは、その約9.6%に相当します。ただし、これは実際の消費電力の内訳ではありません。メモリ本体や計算部分にも電力が必要です。[3]

この計算からは、通信効率の改善が消費電力に影響することが分かります。その効果を評価する際は、接続部分の省電力と、装置全体や冷却を含む消費電力を区別する必要があります。

独自計算④:AIの生成が10倍速くても、30分の仕事は3分とは限らない

AIエージェントの仕事全体がどれだけ速くなるかは、短縮できる処理が全体に占める割合で決まります。AIエージェントは文章の生成に加え、検索、外部サービスへの接続、テストなども行います。生成を速くしても、ほかの待ち時間が同じ割合で短くなるとは限りません。

30分かかる仕事で、AIの生成にかかる部分だけが10倍速くなると仮定します。それ以外の処理時間が変わらなければ、結果は次のとおりです。

元の30分に占めるAI生成の割合改善後の生成時間変わらない時間仕事全体の時間
50%15分÷10=1.5分15分16.5分、約1.82倍の高速化
90%27分÷10=2.7分3分5.7分、約5.26倍の高速化

計算式は「改善後の時間=改善前の時間×(変わらない割合+速くなる割合÷速度倍率)」です。A-1の実測値ではなく、ほかの処理時間を固定した計算例です。

同じ考え方で、速くなる部分が50%なら、その処理時間をゼロにしても、仕事全体には15分かかります。Volantisが挙げるコーディング作業の短縮例も、生成時間が仕事全体に占める割合によって効果が変わります。[1]

生成が速くなれば、同じ時間内に試せる案が増える可能性もあります。利用者が得られる効果は、回答が表示される速さに加え、テストや修正を何回繰り返せるかにも表れます。どこまで効果が出るかは、今後の実装次第です。

反証:光接続だけでは、GPUの優位は崩れない

公表された性能値を確かめるには、モデル、品質、同時利用者数、電力の条件をそろえる必要があります。モデルを小さくしたり、数値の精度を下げたりすると、必要なメモリ量も変わります。条件が異なる比較では、接続方式による効果を切り分けられません。

Volantisの製品ページでは、Rubinと比べて費用あたりのトークン数が15倍、特定の低遅延MoEでは電力あたり6倍などとしています。しかし、確認した公開ページだけでは、結果を再現するための詳しい条件がそろっていません。現時点で「一般的なAI処理でも15倍有利」とは判断できません。[3]

同社の技術ページには、光リンクを測定したとする情報もあります。部品段階の成果まで、すべて未測定と扱うのは不正確です。ただし、接続部品の試験と、完成したA-1で巨大モデルを動かす試験は区別する必要があります。[4]

確認する条件判断に必要な理由
同じモデルと保存精度必要な容量や計算量をそろえるため
同じ入力長と出力長入力の長さによる負荷の差を避けるため
同じ同時利用者数1人あたりの速度と、全体の処理量を区別するため
同じ応答品質速さを優先した結果、正確さが低下していないか確認するため
装置全体の電力と費用接続部分だけの効率を、導入による効果と混同しないため

既存ソフトウェアの移植や運用にも費用がかかります。同社は、A-1に既存の計算回路の設計をライセンス利用すると説明しています。ただし、それだけで既存GPU向けソフトウェアとの互換性まで保証されるわけではありません。[3]

GPU側も改良を続けています。Volantisには、新しい接続方式を実現したうえで、導入や運用の負担を考慮しても選ぶ価値があると示すことが求められます。

利用者には何が変わるのか

一般の利用者への影響は、PC用メモリの置き換えよりも、クラウドAIの待ち時間や利用料金に表れる可能性があります。A-1はデータセンター向けの推論装置です。家庭のPCに増設するメモリ製品として発表されたものではありません。

構想どおりに動けば、巨大なモデルを使ったコード生成などで、待ち時間を減らせる可能性があります。長い入力を扱う余裕が増えれば、大量の資料やコードを読み込む用途でも選択肢が広がります。ただし、これは技術とサービスへの実装が進んだ場合の見通しです。

料金がどう変わるかは、サービスを提供する企業の判断にも左右されます。基盤にかかる費用が下がっても、その分が必ず値下げに回るとは限りません。処理量を増やしたり、より大きなモデルを提供したりするために使われる場合も考えられます。

企業の導入担当者は、毎秒のトークン数に加えて、業務が終わるまでの時間を確認する必要があります。費用も、生成した文字量だけで比べるより、品質確認や再試行を含む「完了した仕事1件あたり」で比べたほうが、実際の効果を判断しやすくなります。

まとめ:次の焦点は、光接続が実際の仕事をどれだけ改善するか

8800万ドルの調達は確認できる事実ですが、A-1の競争力を判断するには、2027年の顧客への提供と、条件をそろえた検証を待つ必要があります。Volantisは、メモリ容量と帯域幅を同時に増やす、新しい接続方法に取り組んでいます。

20兆パラメータのモデルを動かすには、保存精度や台数などの条件を確認する必要があります。240TB/秒という値も、装置の規模をそろえずにGPUの性能と比べることはできません。通信の省電力や生成の高速化についても、装置全体、仕事全体でどれだけ効果が出るかを確かめる必要があります。

注目したいのは、巨大なAIを同じ品質で使うときに、時間と費用をどれだけ減らせるかです。「光なら速い」という説明だけでは判断できません。その効果が実証されれば、GPUの計算性能を中心とした議論は、メモリを含む基盤全体へさらに広がるでしょう。

関連ページ

AI基盤の変化は、チップの確保、電力供給、AIエージェントの使い方と合わせて見ると理解しやすくなります。関連する話題は、以下の記事でも解説しています。

出典・計算条件

企業が発表した性能値、公開資料に基づく独自計算、将来の見通しを区別して記載しています。資料の確認日は2026年10月3日です。容量は原則として1TB=1兆バイト、1GB=10億バイトで計算しました。概算値は、実機の性能や消費電力を保証するものではありません。

  1. Volantis公式発表:8800万ドルのシリーズA調達、A-1と2027年の提供計画(2026年10月1日)
  2. Volantis公式ブログ:Our $88M Series A
  3. Volantis:A-1製品ページ
  4. Volantis:光接続の技術資料
  5. NVIDIA:Mastering LLM Techniques: Inference Optimization
  6. NVIDIA:Rubin GPUのアーキテクチャ解説
  7. NVIDIA:Vera Rubin NVL72の英語版製品仕様
  8. Ayar Labs:TeraPHYの検証・温度試験
  9. Apple:FinisarへのVCSEL量産支援(2017年12月13日)
  10. Hugging Face:量子化の公式資料
  11. NVIDIA:大規模MoEのメモリ・通信と分散処理

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